地元探訪 小河内沢支流布引沢を行く①奥深い沢

「布引きの滝」は、大鹿村の夕立神パノラマ公園(標高約1500m)周辺から見ることができる。
正に布を割いたような白い筋が緑の谷の中に確認することができる。望遠でみてもかなりのスケールが伝わってくるのでその直下への好奇心は絶えない。
数年前に布引き沢の上流を目指したが、装備不備で連続する小滝を上り詰めることはできなかった。
今回は沢屋のNさんと梅雨の晴れ間に2泊3日で溯行を試みた。

Nさんは風邪気味だったので、御所平に10時待ち合わせでのんびりとスタートした。私は今季初のアルパインスタイル。
ついてけるか心配だったけれど、とりあえず歩いてみなくては分からない。
小河内沢の本流は毎シーズン何回も遊ばせてもらっているのでそれなりに歩きなれている。
本流にあるいくつかのおなじみの滝に取り着きながら体を慣らしていく。
まずまずのタイムで右俣との合流点へ。左のV字2㍍を登る。

いよいよ布引き沢へ。ほどなく、Nさんがサンショウウオをみつけて手にもっていた。
この沢筋にはいると聞いていたけれど、はじめて会うことができ興奮した。
アカイシサンショウウオかどうかは分からない。瞳がキラキラとしていてヌメヌメしていて奇麗だった。
その後はいよいよロープも出していくつもの滝を登っていく。
ナメ滝6㍍は左から右へ、3㍍は石を伝う。
Nさんのルート選定とロープさばきが迅速なので、体力消耗も少なく集中できる。
有り難く、もくもくと経験を積ませてもらった。
しばらく日の光が限定的な狭い谷を行くが、出会う滝に夢中に取り付いては登っていくと、あるポイントで空の面積が広くなる。
そこへ落差60㍍ほどのジグザグの滝が姿を現す。
直下に向かって歩みを進めているとNさんが慌てて「くまだ!」といって走ってきた。
目と鼻の先で80キロくらいあると思われる成熊が慌てて尾根に駆け上がっていった。
熊に出会う前から腐敗臭がするなと思っていたが
流れの上部には、やはり鹿の死骸があった。
それを食べていたようだ。

それにしても彼はすごいところを駆け上がっていった。とても人間には登れないところを走っていったのだ。
「くまちゃんルート」はちょっと難しいということになり、それより下部の傾斜を登る。草付きで悪い足場。支点をとって荷揚げして登ると
ジグザグの滝の5分の4くらいのところにでた。
ここが今日のハイライト。滝の流れの下を潜って、ぬめった滝の右側を登る。
私はカッパのフードをかぶり忘れてびしょびしょになってしまった。
体温が下がらないように、呼吸を意識的に深めながらまたもくもくとまだまだある滝を登っていく。

いくつも滝を越えても、なかなか布引きの滝は姿を見せてくれない。
全国、そして世界の谷を歩いているNさんもここの谷の深さは格別だという。
そろそろ野営スポットを探さなければいけない時間になってしまい、ザックを置いて
周辺を探索し始めたところで、ついに布引きの滝は姿を見せてくれた。

落差60㍍。滝の下部には虹ができている。
ほぼ谷間に垂直に落ちていて広がらない滝なのでとても清楚な印象がする。
滝の左下にあるこんもりとした草原はまだ日が射している。
この丘を私たちは「ハイジの草原」と名付けた。私はここでぬれた体を乾かしながら行動食を食べ、
Nさんは荷物を置いて今日の野営スポットを探し、明日のルートを検索。
結局適当な平がないので、流れの脇の一角の斜面を借りて休むことになった。
たき火をして、濡れた体を温める。一息ついてから今日の夕食作り。

今宵はNさんの中央アルプスのお土産のギョウジャニンニクをキュウリと塩昆布のお漬け物に。
新玉ねぎとギョウジャニンニクのポトフ、鶏のささみはイブキジャコウソウと合わせてスパイシーに仕立てた。
そして、小河内沢の支流の黒の田沢の水で育てた自家製米。
ビールと日本酒で「布引きの滝」に乾杯。お楽しみは欠かせない。

◆タイム
待ち合わせ 御所平 10:00
出発        10:45
小日影沢出合    12:30
右俣出会      13:10
布引き沢出会    13:30
布引きの滝直下   17:00 (1800m付近)
野営スポット    18:00

▲開花中のだった草木
布引き沢下流
イワタバコ タケシマラン ユキザサ ヒロハコンロンソウ イブキジャコウソウ  クリンユキフデ ハタザオ トチバニンジン キヌタソウ 

布引き滝直下
チャボセキショウ ミヤマキンバイ グンナイフウロ ミヤマカラマツ ネコノメソウ クルマバツクバネソウ (シロバナ)エンレソウ