コケの調査で来村したIさんを燕岩(つばくろいわ)へ案内した。
川を小一時間徒渉してお目当ての場所に着くとIさんは石灰岩の岩にへばりつくようにして調査を始めた。
たまに珍しいのがあると声を掛けてくれてどんなコケなのか教えてくれる。
ずっと横について聞いていたいけれど、Iさんも仕事だと思い、少し離れた岩場で大人しく休んでいる。
小一時間Iさんは熱心に岩肌と向き合うような形でコケを調査した。ここではお目当てのコケの3種中1種しか見当たらず、もう少し奥に進み支流の地獄、北俣の出会いをざっとみてからまた下流にもどり左岸を調査した。
「この岸壁はとくに面白です」と静かに、けれど情熱がこもった口調でIさん。
地元の自慢の岸壁が誰かの感性を刺激するのはとても嬉しい。
お目当てのコケと思われる種類はここで採取でき、記念撮影をして下山した。
帰って広げたコケのサンプルは宿の大きなテーブルをいっぱいにした。
コケを専門とする研究者の間で「大鹿村の燕岩」は一目置かれる存在だという。
石灰岩由来のめずらしいコケや絶滅危惧種が残存するという。
今回私も「全国燕岩だけ」というコケと巡り会うことができたことで新たな故郷の一面を目の当たりにできた。